脱炭素経営を加速させるCO2の見える化アスエネ 西和田浩平 | 100年ファンド 〜100 Years Fund〜

百年後の世界を、
少しでも良くするための
インパクト活動。

脱炭素経営を加速させる
CO2の見える化
アスエネ 西和田浩平

気候変動

2024.04.19

起業家講師:アスエネ代表取締役CEO 西和田 浩平
モデレーター:GMO VenturePartners 村松 竜

 

西和田:アスエネの西和田浩平です。早稲田大学にお招きいただき、非常に光栄です。私自身は慶応大学でしたが、今日は早稲田カラーのネクタイを着けてきました。

私は新卒で三井物産に入社し、主に再生可能エネルギー分野、太陽光発電や風力発電、蓄電池などの投資やファイナンスを担当していました。ブラジルにも駐在していました。

10年間、三井物産で働いた後、2019年にアスエネを設立しました。最初は正社員は私ひとりで、ソフトウェア開発のエンジニアは業務委託で採用し、その後、共同創業者を迎え入れました。現在は正社員が約140名、業務委託を含めると約250名になっています。

 

村松:快進撃を続けるアスエネですが、西和田さんの大学生時代を振り返っていただきたいと思います。

学生時代の音楽と環境に対する思い

西和田:ここでこんな話をしていいのか分かりませんが・・最初の1年は勉強に興味が持てず、大学には週1回の必修しか行っていませんでした。代わりに何をしていたかというと、バンド活動です。ギターと作曲をやっていて、実はプロになりたかったんです。

ひたすら週7日、バンドをやっていました。ただ、僕自身が当時掲げていた目標を達成できず、ある意味、挫折して、音楽の道は諦めることにしました。でも当その時はビジネスにも興味がなかったんです。ビジネスの先の意義を、イメージできなかったからです。

ある時Mr.Childrenの桜井さん、プロデューサーの小林武史さん、音楽家の坂本龍一さんが立ち上げた「BankBand」のライブに行ったんです。そこで、ビジネスの収益で環境系の団体に投資や融資するという話をライブ中に聞いて感銘を受けたんです。初めて「ビジネスの先」に「社会変革」を想像することができた。

僕は単純だったので、桜井さんが環境系やってたから、まず環境系をリサーチしたら、ビジネスになりそうと思ったのが「再生可能エネルギーの発電所」でした。直感的にこれは面白そうだと思い、調べると商社などがそういうビジネスをやっていることが分かり、商社に行くことを決めました。

大学3年からは今度は週7で大学に行きました。朝から晩まで環境の勉強をしたり、環境経営学のゼミにも入りました。でもふと「自分は理想論を言うだけで行動してない」と気づき、友人と2人で慶応の正門前で2〜3時間、ビラ配りをやって仲間を20人ほど集めて国際協力団体を立ち上げました。そして100万円ほど資金を調達し、「開発途上国に行って課題を見つけて、その課題に対して何かやろう」とインドやネパールに2カ月行きました。

でも、ネパールの小学校に行った時、結論からいうと、課題「しか」なくてですね・・そもそも先生が来ない。トイレもない。水もない。何もなさすぎて、100万円では世界は何も変えられないと強い無力感を感じました。ビジネスっていうのはwin-win-winの構造を作らないと長く続かない、というのがその時わかりました。「やる気」と「コミット」だけでなく持続的な「ビジネス」を勉強しなきゃだめだと痛感しました。

一旦商社へ 再エネ事業とブラジル駐在経験

村松:そして商社に入社するんですね。

西和田:ブラジルには三井物産の現地支店がありますが、私が関わったのは支店ではなく物産がM&Aをしたスタートアップでした。小規模な太陽光発電や省エネ機器を、リース型のサブスクモデルで提供する会社で、約200名の従業員がいました。創業社長はブラジル人で、ナンバー2として当時三井物産から経営陣として出向してた、僕の師匠みたいな方がいて、この2人のすぐ下で働いていました。

とにかくこの2人の働き方がすごかった。パッションや仕事量、質とスピードに圧倒されました。どうやってこれほどの業務を実行できるのか何度も尋ねました。彼らの答えは常に「これが普通だよ」と。朝から彼らと車で一緒に出勤し、いつも対話し、仕事後の飲み会でも研究しているうちに気づいたんですが、彼らは意思決定がめちゃくちゃ早いんです。

例えばある課題が出された時、最初は「どうしようかな」とまずあれこれ考えるじゃないですか。彼らはここの思考速度が非常に速くて、瞬時にA、B、C、Dの選択肢を立て、「絶対にCで勝つ。なぜならこうだから」と具体的な理由付けを瞬時にやるんです。

当時はLINEやFacebookメッセンジャーなどのチャットアプリがなく主にメールでのやりとりだったんですが、その返信が非常に速い。メールなのに「chat」と呼んでいて、そのスピード感の彼らだから、全ての情報が集まってくるのを目の当たりにした。アスエネでの私の仕事ぶりは、彼らをベンチマークにしています。彼らならどんなスピードで進めるかといつも考え、最速を目指しています。

村松:今その話を聞いて、やっと分かった気がします。西和田さん3人いるんじゃないかっていうくらい、いつも即レスですし、同時並行でいろんな仕事をやっていて「なんでそんなことできるんですか」って聞いたら「こんなの普通ですよ」って言ってましたし(笑)。

 

村松:では、起業に踏み切るときの話をうかがいます。三井物産は、非常にブランドもある大企業です。そこを辞めてスタートアップを始めたきっかけを教えて下さい。

西和田:やはりブラジルで、経営にすごく近い距離で仕事ができたことです。「こういう会社を自分で作れたら一番面白いよな」って思ったんです。

起業の2年くらい前から調査や準備を始めていました。でも当時は仕事が面白くて「新規事業やらせて欲しい」といつも会社に言っていたので、ちょっと時間が空くとすぐ新しいプロジェクトにアサインされるの繰り返しでした。でも「今の仕事をちゃんとやろう、と思っている間は起業準備はできない」と、ある時決意しました。

村松:では具体的な起業の話になります。今でこそすごいメンバーが集まってますが、最初の仲間集めはどのようにされたのでしょうか。

最初の資金集め、ベンチャーキャピタルとの出会い

西和田:まず1人で起業したんです。村松さんのアドバイス的にはあまりよくないですよね。

村松:共同創業者がいる方がいいと普段話していますからね。

西和田:共同創業者がいた方が議論できるし、投資家としては投資しやすいと言われます。僕は三井物産に「一緒に起業しよう」と話していた友人がいたのですが、お互い海外出張が続き、かつすでに家族がいて、土日も起業の検討ばかりに費やせず、「これれではいつまでたっても始められないな」と思ったんです。だからビジネスモデルの立ち上げぐらいまでは1人でやって、その後に呼べばいいと考え、とりあえず始めました。

村松:最初の資金はどう集めましたか。

西和田:最初は自己資金でやろうと思っていたんです。それがある時、のちに当社のリード投資家になるインキュベイトファンドの本間さん、村松さんのジャフコ時代の後輩ですよね、とイベントで会ったんです。立ち話で「僕は再エネや脱炭素の領域でこういう事業をやるんです」って構想を話したら、「面白い。6000万円投資するけどどうだ?」ってその場で言われたんです。

村松:先週お話した、数千万円ポンと出しますという、まさにそのシーンですね!

西和田:「起業する」と周囲に話しているとVCを紹介してもらうことが他にもあって、本間さんに「他にも話をしているVCがいるので、2社からの投資という形なら検討できます」と話したら、直球で「どちらか一方を選んで欲しい」と。

村松:人気の起業家が取り合いになる構図というのがあるのですが、まさにこれです。

西和田:会ってまだ15分とかなので「私はまだあなたのことも、あなたの会社のこともよく知らないので」と言ったら「じゃあ来週面談しよう」となって、その翌週にビジネスプランを話したら「いいね。じゃあ来週投資委員会(※VC社内で、投資決定権を持つパートナー達が行う会議)をやろう」という運びになって。

村松:投資委員会でピッチされたんですか。

西和田:ピッチしました(笑)。本間さんには「10分でピッチして」って言われていたのに、いざ行ったら「3分で」言われて。でもその後の質疑応答がめちゃくちゃ長くて。それをこなすと、「市場と、西和田さんは面白い」と。「でもビジネスモデルがアセットヘビー(お金がかかる)。他はないのか」と言われたんです。実は起業当時は、今とは違うビジネスモデルを考えていたんです。

村松:途中でビジネスモデルを大きく変えましたよね。

ビジネスモデルの見直しと、分野の選定

西和田:はい。最初は太陽光発電や蓄電池をサブスクで事業展開することを考えていました。私がブラジルで関わっていた会社のモデルを、太陽光と蓄電池で展開しようとしていたんです。投資家からは「面白いが、資金がかかるため、大企業との資金勝負となり、勝ちにくい」とのコメントがありました。3週間で20のビジネスモデルを洗い出し、マトリックス分析とヒアリングを行いました。

スタートアップの強みは主に2つ、それは「ITテクノロジー」と「スピード」。大企業は豊富な資金やリソースを有していますが、技術の活用やスピードでは弱点があります。だからアセットライト(資産を必要最低限にする経営方法)で、テクノロジーとスピードが競争力になるビジネスモデルを最初の事業として選びました。

 

村松:気候テックの中で今の分野(炭素会計)はどのように選ばれたのですか。

西和田:先ほど言ったテクノロジーとスピードを活かして競争できるかが選定基準でした。特にアセットライトで、プロダクトが完成すれば開発費以外は大きな資金が不要になるモデルを選びました。

たとえば太陽光発電は最初に高額な初期投資が必要ですが、リースやサブスクモデルにすると初期投資後の収益が安定してきます。しかし、スタートアップにとって初期投資そのものが大きな負担です。私は、ソフトウェアのように比較的少ない投資で始められる事業を選びました。

村松:最もお金が流れて込んでいる分野をむしろ避けて、一方で、収益逓増型ビジネスモデルになることを当初から考えていましたね。アスエネの事業は、誰のどのような困りごとを解決するものなのでしょうか。

西和田:プロダクトとしては、まずはCO2排出の見える化です。日本には約4,000社の上場企業がありますが、彼らは企業活動によって排出されたCO2量を毎年開示しなければいけません。そのサポートを我々がやっています。

お客様は入力画面から簡単にデータを入力でき、CO2排出量の月別の推移や主要な排出原因などを分析することが可能です。企業活動で出た水や廃棄物の使用量も管理できます。企業が設定したCO2削減目標への進捗状況もソフトウェアで確認できます。

 

 

ESG評価のクラウドサービスもやっています。企業が自身のESG評価を200問のアンケートに答えることで「AAA、95点」といった形で知ることができます。

村松企業の偏差値です。どれだけ環境対策していますかという質問表が「どさっ」と来て、数字を入れたり、選択肢から選んだり、記述回答したり。これ本当に大変な作業なんです。それで企業のESG偏差値が決まるっていう・・。

西和田:回答のやり方が分からず困っている企業担当者も多く、コンサルをしています。横文字の専門用語を分かりやすく解説するだけでもお客様からすごく感謝されます。

村松:予備校ですね。家庭教師。つまり困っているのは、企業内の、ESG評価のアンケートに回答する人ですね。

西和田:3つ目の事業「カーボンEX」は、カーボンクレジット、排出権の取引所です。SBIホールディングスとのジョイントベンチャーです。従来、カーボンクレジットの取引は相対交渉で、価格がブラックボックス化することが多かったのですが、カーボンEXはITで価格を見える化した、オープンなプラットフォームです。カーボンクレジットが商品として豊富に表示されていて、例えばインドネシアの森林プロジェクトなら2,000円/1トン、欧州のブルー・カーボンプロジェクトなら2万円/1トン、という風に、アマゾンで商品を買うように取引されています。

村松:「カーボンクレジット」についてもう少し詳しくお願いします。

西和田:カーボンクレジットは、植林など「CO2を吸収する」活動で発行されるクレジットです。現在はテクノロジーにより、植林がどれだけCO2を吸収するかを正確に計算できます。それに基づいてカーボンクレジットが発行されます。これが市場で取引されます。このことで、CO2削減や吸収が「金銭的な報酬」を生み出すようになりました。

「植林の動機がお金というのはどうなのか」という議論もありますが、資本主義社会においては、金融のインセンティブにつなげることがとにかく大事です

村松:ビジネスモデルを私の「4つの軸」に沿って説明していただけますか。

西和田:まず、「ビジネスの種類」はSaaS(Software as a Service)です。また定期的にオンラインでのコンサルティングも行っています。我々の「顧客」は主に大企業とその取引先の中小企業です、つまりBtoB。

「バリューチェーンのどこか」は、顧客に直接営業を行いソフトウェア小売りを展開しています。「課金モデル」はサブスクモデルで、料金を月額で受け取ります。加えて別途、コンサルティング・フィーをワンショットで受け取ることもあります。

村松さんの「4つの軸」に、私自身が「5つ目として注目している要素」が「粗利率」です。ビジネスとして収益性が高いかどうかを重視しています。例えばGAFAのような会社は、この粗利率が非常に高い。

そして、私はビジネスモデルを選ぶ際に「市場の大きさ」も重視しています。小さくニッチな市場は将来的に大きな収益に結びつかない可能性があるからです。

成長産業に身を置くことの意味

村松:気候テックには、世界でこの4年間で20兆円もお金が流れ込んでいます。でも西和田さんは、この分野に大学生から興味があり、商社でも最初からこの分野に身を置いていましたよね。

西和田伸びる産業に身を置くことは非常に大事です。縮小産業に身を置くと自分の価値も下がるし、産業そのものにニーズがなくなっていくので、給料も上がらない。どれだけ努力しても結果が出にくい状況になりがちです。ここにいる、アスエネでインターンしてくれている彼は、コンサルのグループに入ってCDP(炭素開示プロジェクト)のコンサルを企業に対してやってくれています。CDPに詳しい人材って、日本には今、ほとんどいないから、実は市場価値が上がっている状態なんですよ。

「AI」と「気候変動」。この2つが、アメリカのVCがいま一番、投資している有力領域です。アスエネも「テクノロジー✖️気候変動」、つまり「成長産業✖️成長産業」を軸にやっています。うちで働いてくれることは「自分の市場価値を上げる」意味でも面白いんじゃないかと思います。

学生1: 今市場の話が出ましたが、アスエネの市場規模はどのように算出するのでしょうか。

西和田: 市場規模の計算はシンプルで、我々のターゲットとする企業がどれくらいいるかを考えます。その数に我々の商品やサービスの平均単価を掛け合わせます。たとえば、仮に平均単価が100万円だとしたら、それ掛ける企業数です。現在は中小企業も含めて全企業がサービスを導入した場合の金額を考えますが、実際には全ての企業が導入するわけではないので、それを踏まえた計算になります。100兆円の市場で10%のシェアを持っているとすると、10兆円の売上につながります。基本的には市場規模以上に売り上げが伸びることはありません。

下川准教授:平均単価100万円という例をおっしゃいましたが、その基準ってどこか他から参考値のようなものを持ってくるのでしょうか。

 

西和田:上場企業は、IRレポートなどにお客様の平均単価を明記していたりします。我々はそのようなものをベンチマークとして計算します。

学生2:ESG評価についての質問です。これまでESG評価サービスは投資銀行や証券会社が、企業の開示情報を基にやっていたと思います。アスエネはこれを代行する形なのでしょうか。

西和田:そうです。大手の評価会社は主に上場企業4000社しかカバーしていません。我々は、これら上場企業が取引しているサプライチェーン、つまり中小企業も対象にしています。市場で十分にカバーされていない領域なので大きなニーズがあります。

例えば、我々のお客様で大手ハウスメーカー様がありますが、約8,000社のサプライヤーがいます。我々のようなサービスがないとどうなるかというと、このハウスメーカー自身がサプライヤーにエクセルで調査票を、いつまでに回答してくださいとメールで送ります。でも全然返信が返ってこないとか、回答が間違っているなど、大変な手間がかかります。我々のサービスはそれらを代行し、サプライヤーへのリマインドなども自動化しています。

学生2:営業戦略は、大企業をターゲットにその取引先サプライヤーへの導入を推奨するのか、個々の中小企業に直接アプローチするのか、どちらでしょうか。

西和田:両方のアプローチを取っていますが、特に効果的なのは大企業への営業です。大企業が我々のプラットフォームを導入することで、そのサプライチェーン数千社が自動的に関連付けられ、彼らも同様のプラットフォームを利用するようになります。このネットワーク効果により、プラットフォームの普及が加速し、最終的には業界全体の透明性が向上し、より多くの企業がESG対応を強化する動機を持つようになります。

学生2:企業が自身で炭素排出量を入力するクラウドだけでなく、アスエネ自身がその情報を開示する側のプラットフォームにもなることは考えていらっしゃいますか。

西和田:はい。今のサービスをさらに拡張して、公開可能なデータベースとしてのプラットフォームも模索しています。例えば、入力されたデータを他のプラットフォームやサービスと連携させて、より広範なデータの可視化や共有を可能にすることです。これにより、企業は自らのCO2削減努力をより透明に示すことができ、ステークホルダーからの信頼を得やすくなります。

学生3:アスエネでインターンをしています。中にいると見えない部分として、外との比較で質問します。炭素会計サービスを提供しているスタートアップは他にもある中、アスエネが業界でトップに立てた理由は何でしょうか。

西和田:よく村松さんなど投資家からも寄せられる、良い質問です。我々は、1社で複合的にビジネスをやっていることが価値になっています。当社のプラットフォームだけで、CO2の見える化、コンサル、ESG評価、カーボンクレジットの売買までできることです。競合他社は、クラウドだけやっている、コンサルだけやっている、カーボンクレジットの売買だけやってるという感じで、お客様がそれぞれ個々のサービス会社と取引するとなると、それぞれと話さなきゃいけなくてとても面倒なんです。我々は1社で全てやるので、コミュニケーションコストと全体のコストを削減できます。

インターンで働いていて分かるかもしれませんが、我々には営業力という強みがあります。共同創業者の岩田が、元キーエンスのトップセールスで、インサイドセールスなど電話営業でアポを取って、サービスの説明をして、フォローしてお客様とコミュニケーションを増やして最後契約書を結ぶオペレーション力が、圧倒的に他社より強いです。スタートアップの中で一番営業強いんじゃないかと思います。営業の話聞かせてくださいみたいな相談も結構多いです。

もう1つ、コンサルも強いです。専門用語を分かりやすく体系的にまとめるのが強い。大手と競合しても殆ど勝てています。大手のコンサルティング会社は、実業はあまりやったことがないとか、価格のことまで分からなかったりするのですが、我々はその実行まで全部できるから勝てる。そのブランディングができています。

アスエネが優秀な人材を獲得できる理由

 

 

村松:他の幹部メンバーの紹介をお願いします。

西和田:CFOは、みずほ証券やカーライルという投資会社出身を経てアメリカのヘッジファンドやスタートアップで働いていた者です。システム開発のトップは、リクルートの社内起業でグランプリとかを取って事業を立ち上げ黒字化まで持っていった者です。彼が加わってから、開発が一気に広がりました。

そして、EYや東京証券取引所出身で上場審査を多く経験してきた者もいて、彼は上場審査をたくさんしているうちに自分も上場したくなってきたと(笑)。彼とインタビューした時「どういう会社が上場できるか?」って聞いてみたら「簡単です。営業が強い会社です」と。どんなに良いプロダクトがあっても、売れなかったらそのプロダクトは使ってもらえないから、営業力って大事なんです。とにかく、これらが我々の経営陣を構成しています。

村松:こういうメンバーって、もう引っ張りだこで、どのスタートアップもめちゃくちゃ探してるんですね。全然採用できてない。西和田さんだけがガンガン採用できているのは、なぜなのでしょうか。

西和田:そうですね・・複合的な理由かもしれないです。1つ目には、我々が成長産業にいて企業としても圧倒的に高い成長を実現できているからだと思います。我々のサービスは全ての産業に提供することができるため、成長作用も大きいのです。

それから、人は働く上での「大義」を求めていることです。例えばひたすら営業の力がついて、もう何でも売る能力がついたけど「社会に役に立ってる実感がしない」と感じている人は結構いるんです。

この領域は非常に大義があって、そこにコミットしたい人が集まってくるというが2つ目の理由と考えています。

幹部面接は2時間半かける

3つ目に、我々は少し普通とは違う採用面接をしています。もう就活を始めている方もいるかもしれませんが、面接って30分から1時間程度ですよね。私は幹部メンバーの面接には最初から2時間半かけています。これには理由があります。

アスエネのことを詳しく知らない状態で面接にくる場合が多いので、相手の期待値がまだ低いところで、「私はこうやって最速で1兆円を目指し、グローバルに展開したい」とインパクトのある話をします。転職は人生で大きな意味を持ちます。じっくりと話し、お互いをより深く理解するよう努めています。

どういう人生を生きてきて、本当に何がやりたいのとか、誰にもストーリーがあると思うんです。「小学生ぐらいまで遡って語って」と必ずお願いしています。そうすると長くなるんです。僕のことも分からないだろうから、僕の小学校の頃の話とか、もうお互いに自己開示をするのを初期段階からして、1回で話し切れなかったら、2回連続で私が採用面接をすることも多いです。

村松:それは珍しいですね・・。2時間半あったら3人面接できるって考えますよね。

西和田:僕はその時間を1人に費やすことが、かなり重要だと思っています。

 

 

下川准教授:給料について質問です。学生も気になる部分だと思うのですが、創業期の給料はかなり下がるんでしょうか。

西和田:当時の三井物産の年収と比べると、最初はかなり下げました。

村松:共同創業者の方はどうですか。

西和田:岩田は、最初は相当下げてもらいました。なぜそれでも来るのかというと、株式などのインセンティブを持ってもらいます。創業時は私が100%の株式を持っていましたが、VCから投資を受けると比率が下がるのと同様、共同創業者にも株を買ってもらう。将来的に企業が成長すれば、大きな金銭的インセンティブになります。また結果を出せば成果主義でどんどん昇給もしていきます。普通のメンバーの場合は、逆に年収が上がっています。大企業の平均年収って今、どれくらいでしょうか。

村松:上場会社の平均が600万円ちょっとですかね。

西和田:この前、日経新聞に出ていましたがスタートアップの平均年収は大体700-800万円。なので今のフェーズで来る人は、年収が下がることはなく、同じか一旦下げて活躍した後に現年収より上がるケースが非常に多いです。

学生4:これほどの経歴の方々を呼ぶために、西和田さんが意識されている「人の心の動かし方」というのがあれば教えていただきたいです。

西和田:自分たちの魅力を、端的に語ることが大切だと思っています。人は論理だけで動くわけではなく、感情で動かされることも多いので、「この人と一緒に仕事したら面白い」って思ってもらうよう意識しています。

あとはシンプルに「大義」と「急成長」を伝えることです。大企業で働きながら、上層部に上がるにはまだ時間がかかると感じている30代たちは、活力があり、知識と体力を兼ね備えています。大企業で埋もれていないで、この会社でグローバルな挑戦をしたい、そう感じてもらうようにしています。

学生こそゼロイチをやるべき

村松;最後の質問です。タイムマシンに乗って「学生時代の西和田さん」に会いに行ったら、なんて声をかけるかを一言でお願いします。

 

 

西和田:「チャレンジしろ」ですね。僕、起業って、ローリスク・ハイリターンだと本当に思っているんです。大企業に10年ぐらいいると「起業には結構リスクがある」とみんな感じるのも事実です。僕もこう見えて実は慎重なところもあって、「起業は何がリスクか」を徹底検証したんです。給料が最初は下がる。あとは、大失敗した時に融資などお金を借り過ぎると自己破産するかもしれない。でも、実はリスクはそれだけで後はチャンスしかないのです。

一方、起業して仮に失敗しても、ビジネスモデルの失敗の経験を学べる。ビジネスモデルを自分で立ち上げて一定の規模に行ったことがある人って、世の中でほとんどいないため実は本当に重宝されます。悪いこと、不正さえしなければ、どこにでも転職できる。うまくいったら会社も伸びるし、今までできなかったことが全部自分で出来る。もちろん金銭的なリターンもある。極めてローリスク・ハイリターンな勝負。

ゼロイチを経験したことある人って、本当にすごく少ない。大企業にも「いつかゼロイチやるんだ」って言ってる人はいるんだけど、そもそも周りに経験者がいないからよく分からない。最初の一歩を踏み出す勇気がある人が日本人に少ないのは、身近な成功事例がとにかく少ないから。友達でスタートアップ成功している例がたくさんあれば「じゃあ俺も、私も」となるのに。

あとは今「出戻り」文化はとても増えています。物産でも「いつでも戻ってきてくれ」って言ってもらえ、懐の深さに感謝しました。

学生だったら、もう「ゼロリスク・ハイリターン」でしかない。僕が今、学生に戻ったら、事業の立ち上げは必ずやると思います。

なぜなら、うまくいってもいかなくても良い経験にしかならないから。失うものは、今の貯金がゼロになるぐらい。結婚して子供がいて、となるとだいぶ事情が変わります。僕は起業する時、年収は一気に下がるけれど、計算したら3年間はなんとか今の生活ができると思いました。

もし3年経って、年収が1円も上がらない事業をやってるようだったら、一度大企業に戻ってまた修行して、2回目のチャレンジをすればいい。だから学生時代の自分に声をかけるなら「チャレンジしろ」ですね。


西和田 浩平(にしわだ・こうへい)

アスエネ社 CEO。慶應義塾大学卒業、三井物産にて日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業出向、ブラジル分散型太陽光小売ベンチャー出資、メキシコ太陽光入札受注、日本太陽光ファンド組成などを経験。2019年にアスエネ株式会社を創業、CO2排出量見える化クラウドサービス「アスエネ」、サプライチェーン調達のESG評価クラウドサービス「アスエネESG」を展開。

(これは2024年4月19日に早稲田大学本キャンパスで行われた講座を記事としてまとめたものです。)